振袖のインクジェットはよくないの?インクジェットの見分け方
インクジェットといえば、紙を印刷するプリンターの用語として聞くことが多いですが、実は衣類にも使われている技術です。むしろ手で染められた洋服は、今は圧倒的に珍しく、ほとんどが印刷で色付けされているものです。昔ながらの振袖を見てきた方だと、その品質を疑うかもしれません。今回は、そんなインクジェットの振袖について解説します。
インクジェットとは
これまでの振袖は、手工芸で染色されているのが主流でした。振袖は長い袂がついているため、他の着物よりも全体面積が広くなります。そんな大きなものを、技術の持った職人たちが手で色柄を描いていくのですから、大変時間のかかる作業です。作れる数にも、もちろん限りがあります。まさに芸術作品といえ、今や希少品ですので、値段が高いのも頷けます。
そんな振袖を、手が届きやすいものにしているのが、インクジェットなのです。インクジェットは、微粒子にしたインクを直接、紙や布に吹きつけて印刷する形式のことを指します。
繊細に色を再現できるのが大きな特徴といわれており、そうした最近の印刷技術の進歩によって、振袖の細かな模様も上手に表現できるようになったのです。インクジェットの振袖が近年増えてきているのは、こうしたことが背景にあります。機械の仕事ですので、もちろん手作業よりも時間をかけずに仕上げることができます。
インクジェットの見分け方
そんな繊細な色付けをされた振袖を、誰もが一目で「これはインクジェットだ」とわかるものかといえば、着物に詳しくない人にとっては、かなり難しい判断となるでしょう。見分けたい場合には、どのあたりに注目すればよいのでしょうか。
たとえば、柄が刺繍によって施されているものは、印刷でないとすぐにわかると思います。問題は、手で色付けされたものとインクジェットで色付けされたものとの違いです。素人目には、表面から判断するのは困難なので、生地をめくってみてください。裏面まで色がしっかり入っているものは、手染めの振袖である可能性が高くなります。
反対に、裏面が白っぽくなっているものは、インクジェットの可能性が高いです。生地の表面からプリントしていくので、インクが裏面にまで染み出てくることがそうそうないために、白く見えるのです。買う前・借りる前に、お店の人に聞くのが一番ですが、こういう方法で見分けることも可能です。
インクジェットの振袖はよくないの?
さて、昔ながらの技術でもなく、紙みたいに印刷できてしまう、素早く仕上がると聞くと、インクジェットの振袖は質が悪いのではないかと怪しむが気持ちが出てきてしまいます。確かに、絹のような自然素材の生地にはプリントを施せません。自然のものの形を、均一に揃えることは難しいからです。
均一に揃えられないとなると、どうしても生地は厚くなってしまうのです。厚い生地だと、印刷という行程をクリアできません。ではインクジェットの振袖にはどんな生地がよいかというと、印刷を施せるように薄く、そして強い生地が適しています。そのため、化繊を使う必要があります。
しかし、自然素材ではないからといって、それが悪い質の振袖という意味になるわけではありません。薄さと強さを兼ね備えた、充分しっかりした生地といえます。そもそも品質がよくない生地にはそういった印刷もできないので、インクジェットの振袖もちゃんとしたクオリティの生地を使用しているのです。
インクジェットの振袖は安い?
ここまでのお話で、だいたいおわかりになるかと思いますが、インクジェットの振袖は安い値段で手に入れることができます。手作業で染められた振袖に比べて、その差は数十万円にもなります。手描きの振袖は、職人の高い技術力、そしてたくさんの時間をかけて作られているので、安い価格で提供するのは不可能に近いのです。そういう意味で、インクジェットの振袖が生み出されたおかげで、多くの人が振袖を気軽に着られるようになったといえます。
振袖はそもそも格式の高い礼装ですので、着る機会は人生でも限られています。出番の少ない物に、高いお金を出すのはためらう、という人は少なくないはずです。インクジェットの振袖はこうした人たちにも、軽い気持ちで楽しんでもらえるという点で、パイオニア的振袖といえるでしょう。
インクジェットの振袖について、理解は深まったでしょうか。新しい技術だから悪いもの、値段が安いから悪いものというイメージに囚われず、ご自身が本当に着たい振袖はどんなものか、という基準で選んでみるとよいかもしれません。振袖をいろいろなシーンで着たいという方は、手染めを選んでもよいですし、今後着る予定はないから費用はおさえておきたいという方は、インクジェットから選べばよいのです。どちらでもこだわりがないという人は、単純にデザインから決めても大丈夫です。自分の考え方にフィットしているのはどんな振袖か、考えてから決めるとよいでしょう。